- M&Aコラム
- 2025.11.21
《大和経営 至誠M&Aコラム》 ビジネスDD(ビジネス・デューデリジェンス)の8つの実施ポイント
〜買収判断と結果の精度を高めるために〜
M&Aは、理念・人材・技術・歴史を未来へつなぐ“素晴らしい手段”である一方、
事業である以上、必ずリスクが存在します。
そのリスクを正しく把握し、
「この会社を買って本当に大丈夫か?」
「買った後、成長させることができるか?」
を判断するために必要なのが ビジネスDD(ビジネス・デューデリジェンス) です。
ビジネスDDは、財務・法務だけでは分からない
事業の本質・強さ・未来性を見抜く作業。
以下では、実務で必ず押さえるべき
8つの実施ポイントを整理します。
1. 事業内容・ビジネスモデル分析
事業がどのような仕組みで収益を生み出しているのか、まず徹底的に理解します。
・売上構成・収益構造(主要顧客・商品・地域などの分析)
・強み・競争優位性
・参入障壁・模倣困難性
・成長要因と事業課題
ビジネスモデルを誤解すると、買収は必ず失敗します。
ここがすべての出発点です。
2. 市場・業界分析
事業単体の魅力だけでは充分ではありません。
市場の波に乗れているかどうかが、長期的な収益力を左右します。
・業界動向、成長性、競合状況
・対象企業のポジション(シェア・ブランド力)
・外部環境リスク(法規制・技術変化・人材動向など)
「市場が伸びているか」「縮んでいるか」は、結果に直結します。
3. 組織・人材
数字以上にM&Aを左右するのは、実は“人”です。
・組織体制と意思決定構造
・主要人材・キーマン分析
・後継者や人材リスク
・社風・エンゲージメント・離職率などの文化的側面
後継者不在・属人化・離職率の高さは、M&Aの大きなリスクになります。
4. 業務プロセス・オペレーション
実際に事業がどのように運営されているかを確認します。
・調達・生産・集客・販売・サービスの流れ
・業務効率、属人性、ITシステムの活用度
・内部統制・情報共有体制
「現場を見ればすべて分かる」と言われるほど、
オペレーションは企業の実力を映します。
5. 財務との整合(必要に応じて)
ビジネスモデルと財務実績が整合しているかをクロスチェックします。
・ビジネスモデルの利益構造と財務の一致
・収益性分析(顧客別・商品別・チャネル別)
・原価構造の特徴と改善余地
商品別・顧客別の採算を確認しなければ、正しい企業価値は算出できません。
6. 法務・会計・税務等とのクロスチェック
ビジネスDDは単独で行うものではありません。
他のDDで出た論点と必ず照合します。
・法務DD・財務DDその他DDで見られた懸念点との関連
・経営実態に対する整合性コメント
分野横断で整合性を取ることで、初めて全体像がクリアになります。
7. 将来性・シナジー分析
ビジネスDDの核心は「未来のキャッシュフロー」を見抜くことです。
・今後の成長可能性(市場機会・事業拡張性)
・買収後シナジー・改善余地
・内部・外部のリスク要因
・買収側の管理コスト(人員・時間・資金等)
将来の絵が描けなければ、どれだけ安く買っても成功しません。
8. 総合評価・提言
最後は、投資判断・経営判断につながる形でまとめます。
・対象事業の総合評価(◎〇△×)
・買収・出資の可否判断に関する助言
・ディール実行・価格調整・PMIに関する提言
「買うべきか、買うならどの価格か、買った後どうするか」が明確になるレポートが理想です。
・付属資料(調査の透明性と精度を高めるために)
・ヒアリング記録
・分析用グラフ・図表
・顧客分布・売上推移データ
・SWOT分析表
・リスクマトリクス
これらを揃えることで、意思決定の透明性が高まります。
ビジネスDDは「未来の損失を防ぐ投資」
本気で詳細分析・資料化を行えば、
大手コンサルティング会社様に依頼すれば一般的に1000万円を超えても不思議ではありません。
そして実際に、
買収後に発生する長期的な損失は1000万円どころではない
という事例は多く存在します。
M&Aは素晴らしい可能性を持つ一方で、
“見抜けないリスク”が命取りにもなり得る世界です。
だからこそ、
事業そのものを深く理解し、
未来の可能性と自社とのシナジーを考えやすくするビジネスDDは、
きわめて価値の高いプロセスです。
予算には限りがあるかもしれません。
しかし、
「どの範囲まで行うか」
「どの精度を求めるか」
を決めることで、成功確率は大きく変わります。
すべての経営者の皆様に、
どうか悔いのない、
“成功と言えるM&A” を実現していただきたいと心より願っております。