- 経営支援
- 2025.06.07
経営支援「上司に求められる傾聴とは」大阪 経営アドバイザリー会社 大和経営
上司に求められる「傾聴」とは
~信頼関係を築く、最もシンプルで効果的なマネジメント行動~
職場において、部下の声に耳を傾ける力――つまり「傾聴」は、単なるスキルではなく、上司としての信頼と影響力を築く“土台”です。この「傾聴」がなぜ重要なのか。心理学や経営学の分野で名を残した複数の研究者が、異なる視点からその意義を明らかにしています。
本記事では、心理学者カール・ロジャーズをはじめ、スティーブン・R・コヴィー、エドガー・シャイン、ダニエル・ゴールマンらの理論をもとに、上司に求められる「傾聴」の本質と実践方法を解説します。
カール・ロジャーズの「傾聴三原則」
~心理的安全と成長のために~
心理学者カール・ロジャーズ(Carl R. Rogers)は、来談者中心療法を提唱し、対人関係における「聴く姿勢」の重要性を体系化しました。彼が示した「傾聴の三原則」は、上司の対話にもそのまま応用できます。
1. 共感的理解(Empathic Understanding)
相手の立場に立って、感情や考えを深く理解しようとする姿勢。
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「なぜこのように感じているのか?」と背景に目を向ける
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「わかるよ」「その気持ち、理解できる」と伝える
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アドバイスよりも“寄り添う”姿勢を優先する
2. 無条件の肯定的関心(Unconditional Positive Regard)
評価せず、ありのままの相手を受け入れる態度。
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部下の発言を「まず受け止める」
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自分と違う考えも尊重する
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話す相手に「安心していい」と感じさせる
3. 自己一致(Congruence)
上司自身が誠実であり、偽らずに相手と向き合うこと。
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聞いているフリではなく「本当に関心がある」態度
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無理にいい顔をせず、わからないときは正直に伝える
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必要に応じて、自分の体験もオープンに共有する
スティーブン・R・コヴィーの「まず理解に徹し、そして理解される」
~7つの習慣に学ぶ、傾聴の順序~
世界的ベストセラー『7つの習慣』の著者スティーブン・R・コヴィーは、第五の習慣として「まず理解に徹し、そして理解される(Seek First to Understand, Then to Be Understood)」を挙げています。
この習慣は、上司として部下と信頼関係を築くうえで極めて重要です。
「多くの人は、聞くためではなく、返すために聞いている」とコヴィーは述べています。
傾聴とは、相手を“説得するために”聞くのではなく、“理解するために”聞く姿勢。これが結果的に、部下からの尊敬や納得を引き出します。
エドガー・シャインの「謙虚な問い」
~問いかけと沈黙で、信頼は生まれる~
組織文化論の第一人者であるエドガー・シャインは、著書『謙虚な問い(Humble Inquiry)』でこう説いています。
「信頼を築く最も強力な行動は、“相手に関心を持って問いかけること”である」
つまり、傾聴とはただ「聞く」だけでなく、相手を尊重した問いかけによって、「語ってもよい雰囲気」をつくる行動でもあります。
たとえば:
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「どう感じていたの?」
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「なにか背景にあったのかな?」
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「私にできることはある?」
このような問いを、誠実な沈黙のあとに投げかけることが、傾聴の一部になるのです。
ダニエル・ゴールマンの「EQ(感情知能)」
~聴く力は、感情のリーダーシップでもある~
『EQ こころの知能指数』の著者ダニエル・ゴールマンは、リーダーにとって**感情のマネジメント力(EQ)**が業績に直結すると述べています。
傾聴は、部下の感情を正しく読み取り、受け止め、安心感を与えるという点で、EQの核心に位置します。
部下の言葉の奥にある「気持ち」を聞き取る上司は、感情の信頼を集め、職場に心理的安全性をもたらすのです。
実践編|上司に求められる「聞く姿勢」
理論をふまえて、上司として実践したい行動は次のとおりです。
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最後まで遮らず聞く:「話すよりも聴く」時間が信頼をつくる
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表情・相づち・うなずきで“聴いている”を表現する
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問いかけで関心を示す:「どう思った?」「詳しく聞かせて」
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「聞いてくれてありがとう」と言われる聞き手を目指す
まとめ|聞くことは、人を動かす「最高のマネジメント」
心理学、経営学、組織論、感情知能――。
どの分野から見ても、「傾聴」は上司にとって最も効果的な影響力の源です。
・カール・ロジャーズ:共感と受容が人を育てる
・スティーブン・R・コヴィー:理解の姿勢が信頼を生む
・エドガー・シャイン:問いが関係性を変える
・ダニエル・ゴールマン:感情に耳を傾けることがリーダーシップ
「話すことで得られる信頼」よりも、「聴くことで生まれる信頼」のほうが、ずっと強く、持続的です。
上司の仕事とは、判断することではなく、
“安心して語れる場”をつくることから始まります。
明日から、ひとつの質問、ひとつのうなずきから始めてみませんか?