- M&Aについて
- 2025.05.05
M&Aについて「売り手の後悔を減らすために」
灘井です。
事業承継、M&Aを検討されている売り手企業様、買い手企業様の両方が、悲しい思いをしないために、少しでも役立つ情報を発信できたらと思っております。
売り手の後悔を減らすために──譲渡金額だけでなく「方法」と「契約内容」も大切に
M&Aというと、「いくらで売れたか」という金額面ばかりが注目されがちです。
もちろん、高い評価を受けることは売り手として嬉しいもの。しかし、実際にM&Aを経験した経営者が、数年後に本当に満足を感じるかどうかは、“金額”だけでは決まりません。
むしろ、「誰に」「どうやって」譲ったかという譲渡の方法と、それを支える契約内容の設計こそが、売り手にとって長く尾を引く“満足”や“後悔”を左右するのです。
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■ 譲渡の方法と契約内容は、未来を決める“設計図”
「譲渡の方法」とは、単に“株式を売却する”というシンプルな手続きでは済まないものです。
実際には、以下のような要素を丁寧に設計する必要があります:
• 一括譲渡か、段階的な引き継ぎか
• 代表者の交代時期とその伝え方
• 役職員の処遇方針(解雇・待遇・評価制度など)
• ブランドや社名を継続するか、変更するか
こうしたポイントは、譲渡後の従業員のモチベーション、取引先との信頼関係、そして会社の文化や方針そのものに影響を及ぼします。
たとえば、「段階的に引き継ぐはずだったが、買い手の意向で急に離任を求められた」「社名が突然変わり、従業員の帰属意識が薄れた」など、譲渡後に思ってもみなかった事態に直面し、後悔される方も少なくありません。
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■ 契約内容の精度が“納得感”を左右する
譲渡の方法を現実のルールに落とし込むのが、「最終契約書(SPA)」や「合意覚書(MOU)」といった契約文書です。
ここで重要なのは、金額交渉だけに終始しないこと。
具体的には、以下のような契約項目の詰めが甘いと、譲渡後のトラブルに繋がります:
• 表明保証の範囲と責任期間(どこまで売り手が責任を負うのか)
• 従業員・役員の処遇や雇用継続に関する合意
• 買い手による運営方針の継続や変更制限
• 譲渡後、一定期間関与する場合の役割や報酬の明記
「信じて任せたつもりだった」という気持ちがあっても、契約上に明文化されていなければ、買い手にとっては“あくまで善意の範囲”となってしまいます。
結果として、「あの時もっと細かく決めておけばよかった」「経営方針が一変してしまった」といった後悔に繋がってしまうのです。
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■ 後悔を減らす3つの視点
売却を“ゴール”とせず、“次の未来への引き継ぎ”ととらえることで、売り手にとっての後悔は大きく減らせます。そのために意識したいのが、以下の3つの視点です:
1. 誰に譲るのか(相手選び)
価値観や経営方針が合う相手か。信頼できる人物かどうか。
2. どうやって譲るのか(譲渡方法の設計)
一括か段階的か。現場の混乱を防ぐためのプロセス設計ができているか。
3. 何をどう約束するか(契約内容の精度)
信頼関係に加え、法的にも“守られる仕組み”が整っているか。
これらを一つひとつ丁寧に検討することで、金額以上に“納得のいく譲渡”を実現することができます。
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最後に:売却価格より「譲ってよかった」と思えるM&Aを
高く売れた。それは確かに喜ばしいこと。
しかし5年後、10年後に振り返ったとき、「あの人に、あの形で譲ってよかった」と思えるM&Aこそが、売り手にとって本当の意味での成功です。
そのためには、信頼できる専門家と共に、“金額”だけでなく“方法”と“内容”を戦略的に設計していくことが不可欠です。